SPECIAL特集

インタビュー

2020.10.25

vol.5 温度で味わいが変わるお茶の世界
〜茶葉に合わせた淹れ方を学ぶ〜

お茶は暮らしの一部。そう言ってもいいくらい、お茶は生活になくてはならないものです。慌ただしい朝の一杯に始まり、ほっと一息つけるときのお供に、寝しなの安らぎに。誰かと気兼ねなく話せるのも、その手元においしいお茶があるからかもしれません。今回は、年間を通じて400種類以上のお茶を扱う「世界のお茶専門店ルピシア」の湯谷太郎さんに、お茶の淹れ方や歴史について教わります。

お茶がもたらす空間デザイン

そもそもお茶とは、どのような効果をもたらすものなのでしょうか。渇きを潤すものであることはもちろんですが、人と対話する場においては、欠かせないと言えるほど大きな存在感を持っています。

「大勢でお酒を囲む場や賑やかなシーンは減りましたが、同時に家庭で過ごすような静かで親密な時間と空間の使い方を工夫することが多くなりました。そして生活の場だけではなく仕事場としても、自宅の空間をいかに快適に過ごせるか、また日常の中でいかに非日常の世界を楽しむかなどが、これからの新しい生活スタイルを考える上で欠かせないものとなってきているでしょう。親しい人とお茶を飲んで過ごしたり、家族で時間をともにする、またオンラインでの会話でも、おいしいね、香りがいいねと共感しながらお互いにお茶をいただくことは、小さくても確実なリラックスの時間になっていることを実感しています。
ルピシアがアンバサダーとしておすすめしているデロンギの温度設定機能付き電気カフェケトルは、スタイリッシュなデザインでありながらもニュートラル。和洋の伝統的なティーポットやモダンなもの、オリエンタルなティーカップなどとも合いますから、どのようなお茶をいただく方にもおすすめです。お客さまの目の前でお茶を淹れるデモンストレーションをする際に、デロンギの温度設定機能付き電気カフェケトルはとても使いやすいと社員からも評判です(2020年10月現在、店頭やティースクールでの試飲に一部制限あり)。
また、お茶は優秀なコミュニケーションの道具でもあります。お客さまや家族がいる中でお茶を淹れることで、お好みの種類や茶器を選んでいただいたり、会話を交わしたりする楽しみも味わうことができるのです。ケトルでお湯が湧く水音や湯気の気配、お茶の香りの細やかな変化を共有しつつ、おいしいお茶を淹れる温かさ。温度設定機能付き電気カフェケトルは、そんなささやかな非日常の空間演出に役立つ魅力を持った商品だと思います」

《日本茶を学ぶ》 淹れるお湯の温度が違うだけで変わる味の魅力とは

近年海外でもトレンドとなっている日本茶。一言に日本茶といっても、産地や製法によって味や香りには違いがあります。そして実はお湯の温度によって、誰にでもはっきりとわかるくらい味に違いが出るそうなのです。

「日本茶という言葉からイメージされるのは、新芽を摘んで蒸した緑茶・煎茶です。こちらは京都府・宇治などで製法が確立したお茶で、低温のお湯を使うのが伝統的な淹れ方です。緑茶本来の爽やかさ、旨みやまろやかさを感じるのに適しています。
新茶や、宇治産の煎茶などの伝統的な茶葉は、70〜75℃を目安にひとさましした低温で淹れると、もっとも自然なおいしさを引き出すことができます。また、深蒸し製法による日本茶は、80℃から熱湯を目安に淹れることで、すっきりとした香ばしい風味や適度なコクを楽しめます。食中食後のお茶やリフレッシュには、こちらのお茶が最適です」

日本茶は、温度による風味の違いを楽しめるお茶。江戸時代から僧侶や文人、画家などに愛好されたのが、“煎茶道”です。

「煎茶道とは、急須と茶葉を使ったお茶の様式です。17〜18世紀に京都で禅を修行する僧侶によって始まったと言われています。流派によって茶葉や道具、回数など細かな違いはありますが、低温から高温へと湯の温度を変えることで、茶葉の持つ風味を味わい尽くすことに特徴があります。
まず、小ぶりな急須に玉露の茶葉を入れて、一煎目は50℃程度の少量の湯を注ぎ、濃厚な旨みとほのかな甘みを引き出します。二煎目では70〜80℃の湯を使い、コクと奥行きのある玉露ならではの味わいを楽しむ。三煎目は熱湯で、心地よい苦みや渋みを感じる。喉を潤すためというより、会話や手順を楽しみながら、数滴から数mlのお茶を淹れ、時間をかけて堪能するのが煎茶道の流れです」

デロンギの温度設定機能付き電気カフェケトルは、温度調節ができるので、好みの温度に合わせてお湯を沸かすことができる優れもの。一煎目に使う50℃という低温も、温度計なしにボタンひとつで準備できます。
お茶に大変詳しく、文献も多く読まれている湯谷さん、実は子どもの頃からお茶に親しまれていたといいます。

「わたしは、狭山茶の主力産地となっている埼玉県・所沢で子ども時代を過ごしました。映画『となりのトトロ』の舞台になったことでも知られている新興住宅街なのですが、ちょっと離れると、周囲は茶畑だらけだったのです。お中元やお歳暮シーズンに地元名産のお茶を手配する両親に連れられて、築数百年の大きな茶農家でちょっとした“利き茶”をさせていただくのが、小学生時代の季節の習慣でした。
『となりのトトロ』に出てくるような農家の縁側で、地元で知られたお茶名人がお茶を淹れてくださるのです。急須や茶碗に何度も移し替えた湯で淹れた煎茶の、香り高く甘みのある味わい、二煎目からの風味の変化などは、茶畑や農家がすべてビルや住宅になってしまった今でも、色鮮やかに覚えています。同じ茶葉を使ってもうまく淹れられなかったので、当時は内心、売っている茶葉と試飲させてもらったものは違うのだろうと疑っていました。でも今にして思うと、名人のお茶に感じた滋味ある風味の秘密は、煎茶道に由来する細やかな調節だったのでしょう。
50〜60℃のお湯で淹れた高級な手もみの煎茶、なかでも新茶には、茶葉本来のみずみずしさと、リラックス成分であるテアニンの甘みや旨みが前面に感じられます。子どもの頃に淹れたときは、この湯冷ましの温度管理に失敗していたせいで、同じような風味にならなかったのです。今なら、温度をワンタッチで変えられる電気カフェケトルで簡単にお湯の温度を設定できるので、ちょっと練習すれば再現できるようになると思いますよ」

 

《抹茶を学ぶ》 カフェオレボウルでもできるお抹茶の楽しみ方

アメリカでも、お茶に含まれる食物繊維やポリフェノールなどを手軽に摂取できることから、健康志向の方を中心に人気のある抹茶。でも、茶道としてお茶を点てるとなると、作法や揃えなくてはならない道具もあり、敷居が高くてなかなか手が出ません。そこで、生活の中に取り入れられるようアレンジした抹茶のいただき方を教えていただきました。

「抹茶は、2000〜2010年代にかけてヨーロッパや北米で本格的に流行しました。ニューヨークのおしゃれなカフェの定番メニューに抹茶が加わったり、茶せんで点てる抹茶をいただけるスタンドがブティックにも併設されたりしました」

道具がなくても気軽に点てることができれば、気分やその日のお茶菓子に合わせて抹茶を飲もうという選択ができるようになります。湯谷さんがおすすめしているのは、茶せんだけで簡易的に点てる方法です。

「茶せんという竹製の攪拌する道具があると、より手軽に点てることができます。器は、カフェオレボウルやお食事に使うお茶碗などで構いません。抹茶は細かい粉末状のため、点てるときにダマにならないよう金属製の茶こしでふるってから器に入れるのがコツ。デロンギの温度設定機能付き電気カフェケトルで80℃に調節したお湯を入れ、茶せんで攪拌すれば、ご自宅でもおいしく抹茶がいただけます。わたしはエスプレッソコーヒー感覚で、リモートワーク時の午後のお茶や、リフレッシュタイムなどに飲んでいますよ。
お茶だけでなくアートやデザインがお好きな方は、桃山から江戸時代にかけて流行した茶道具の名品を図書館や博物館で調べてみると、とてもおもしろいのでおすすめです。特に宗達や光琳など琳派の流れなどから入ると、いかにも和風な大人っぽいものから、小動物や植物をモチーフにしたかわいらしい図案、アシンメトリーな形状のDIY精神に富んだ焼き物まで、現代のデザインにも繋がるさまざまな発見ができて面白いですよ」

さて、抹茶はお茶として点てる他、焼き菓子に入れたりゼリーやチーズケーキなどの冷たいお菓子に加えたり、アレンジの仕方がたくさんあるのも魅力的です。

「抹茶は一度開封してしまうと、あっという間に風味が落ちていってしまいますので、早めに使い切りましょう。ヨーグルトやバニラアイス、練乳に混ぜていただくのもおすすめです。また、塩と合わせた抹茶塩にしてお肉など脂肪分が多い食材の調味料としたり、チーズを使った料理と相性がよいのでトッピングにしたりしてもおいしいですよ」

《中国茶・健康茶を学ぶ》 歴史に見るお茶のある景色

最後にお聞きしたのは、中国茶と健康茶について。
中国茶は烏龍茶やジャスミン茶などおなじみのお茶を筆頭に、数万以上の種類があると言われています。その中でも、小さな茶器に入れて楽しむ台湾茶は日本でも人気があるそうです。

「烏龍茶よりも青い風味で、きれいなグリーンをした台湾茶は、“緑の烏龍茶”という愛称でも親しまれています。急須でも香りよく淹れることができ、日本茶が好きな年配の方にも受け入れられやすい味で、どこか親しみを感じる香りもします。一説によれば台湾では1980年代に日本の茶道の影響を受けながら、烏龍茶を使った独自のお茶の様式である“工夫茶”を発展させました」

工夫茶を淹れるときにもデロンギの温度設定機能付き電気カフェケトルが役立ちます。小さな茶器にお湯を注がなくてはならないので、細くスタイリッシュな形の注ぎ口がとても使いやすいのです。

「ティーポットの原型となる急須の原型については、お茶の発祥の地である中国で作られたのが始まりですが、湯沸かしの土瓶だった説や、お酒を温める道具だったのかもしれない、など諸説があります。
また、工夫茶の作法に使われる、江蘇省宜興市(こうそしょうぎこうし)をはじめとする場所で作られた小さな急須は、仏教の禅僧などが書道の水注(すいちゅう)を転用したことが起源だと考えられています。そのため、現在でも工夫茶に使われている急須は、非常に小ぶりなものが多いのです。デロンギの温度設定機能付き電気カフェケトルの注ぎ口はピンポイントで熱湯を差せるため、工夫茶を淹れるときにもとても扱いやすいと思います。種類にもよりますが、中国茶は熱々に沸かしたお湯で淹れることが基本です」

他にもお茶の種類はさまざまあります。最近じわじわと人気が高まってきているのが健康茶。
ルピシアの健康茶のコンセプトは、基本的においしいことだと湯谷さんは話します。

「たとえばこの夏に発売した黒文字和生姜茶は、和製ベルガモットとも呼ばれるクスノキ科の落葉樹、南アフリカ名産のハーブ、グリーンルイボスと、国産の生姜をブレンドしています。クロモジの風味をひきたて、さっぱりとしながらも体の中からほんのり温まる余韻のある味わいに仕上げています。単に健康によい、成分が魅力的だというだけでなく、嗜好品として、毎日の暮らしの中で親しめることを第一に考えています。他にもドライフルーツやハーブなどを使ったさまざまなお茶を開発しておりますので、ぜひ試してみてください」

また、お茶の味や香りへの感覚をもっと研ぎ澄ませたい方におすすめしたいのは、同じお茶を毎日飲み続けることだそうです。

「たとえば細やかな風味の違いを体感したいのであれば、ダージリンや台湾茶、日本茶など、同じ茶葉を毎日温度や淹れ方を変えて飲んでみるのが、一番味覚を育てられるでしょう。遠回りに見えて一番これが早いと思います。飲んでいるうちに、自分の中にそのお茶に関する目安や指針が生まれ、自分の体調の変化も含めて感じられる幅が広くなっていくでしょう。
そうしたら次は、同じダージリンでも茶園やロットの違うものを飲んでいく。こうして2〜3ヶ月ぐらいを目安にメモを取りながら続けると、おそらく失われることのない、確固としたお茶の官能に関する基準を自分の中に持つことができます。これでもうわかったと思ったら、別の種類のお茶にステップアップすればよいと思います」

歴史の中で、さまざまな国で、長く親しまれてきたお茶文化。これらは無数の歴史上のできごととつながると同時に、現在の私たちの暮らしにも密接にかかわってきています。知らなくても十分においしい。でも、お茶を知ることで生活に彩りが増していき、日常を豊かにしてくれるでしょう。

監修/株式会社ルピシア ルピシアだより編集室 湯谷太郎
取材・文/吉川愛歩